みちしるべ
第263号

目次(ページ内リンク)
§ 19条裁判と今後のあはき運動 〜裁判は完全勝訴、そして〜 あはき対策部  生田 行信
§ 第56回守る会総会(2023年度) の報告  生田 行信
§ 第36回全視協奈良大会に参加して  井上 芳史
§ 「第36回全視協、奈良大会」代議員会報告  浜口 誠一
§ 「出るわ出るわ 福祉分科会」      〜 全視協奈良大会報告 〜  藤原 義朗
§ 「窓」 〜「耳の新聞」のった歌〜       朝日新聞2018年12月2日記事

§ 19条裁判と今後のあはき運動 〜裁判は完全勝訴、そして〜


あはき対策部  生田 行信

 視覚障害あはき師の存亡をかけて闘われた19条裁判。最高裁判決が昨年(2022年)2月7日に出され勝利した今、今後のあはき運動を展望するために、裁判の背景、闘いの意義、取り組み等についての学習会を3月26日(日)、高知市障害者福祉センターで行いました。講師には全視協あはき対策担当理事で裁判対策本部長を務めた東郷進氏をお招きし、久しぶりの対面形式で行いました。やはり伝わってくるものが違いますし、自由時間での交流や質問など、プログラム以外で得られるものも多かったです。講師と県外からの1名、会員外2名を含めて15人の参加でした。教員の参加も多く、広めていく上でも意義が大きかったと思います。会の後は12名の参加で講師との食事会を行いました。
 点字民報2023年4月号掲載の「特集 あはき法19条裁判最高裁判決から1年」を使って以下の順でお話いただきました。
1 あん摩師等法19条連絡会 判決後の幹事会で報告集作製を決議、執筆を分担
2 連絡会で果たした全視協の役割「七味のように」
3 全視協の活動
(1)傍聴
(2)署名
(3)裁判の進行を伝える
4 最高裁判決

 内容の詳細はこの点字民報に譲り、闘いの現場で先頭に立ってこられた東郷さんだからこそ聞ける話の中で、印象深い点やこぼれ話を挙げたいと思います。

●なぜ横浜の学校の裁判が東京地裁、福島は仙台地裁、兵庫が大阪地裁なのか?
 従来からの司法上の慣例で、行政裁判は高裁がある都道府県の地裁で始まります。
●晴眼学校も19条を支持
 1964年に19条が制定されて以来、あん摩課程新設を認められたのは愛知県の中和専門学校のみ。東京の早稲田専門学校の申請は強い反対運動で却下。その後は晴眼学校も過剰養成は好ましくなく19条支持になっていった。(従来からの晴眼学校組織)

●「第2」晴眼学校組織の代表格としての提訴
 あん摩課程新設を認められてこなかった新参学校が第2組織化し、代表格である岸野雅方氏(平成学園グループ理事長)が提訴、いわゆる「チャンピオン闘争」。

●団体間の共闘態勢の意義は大きい
 特に傍聴活動では、全ての口頭弁論の傍聴席を満席にしました。希望者が多いので裁判所は2回目から大きい法廷を使うようになったほどです。東京、仙台、大阪で各地方協議会が作られ運動をまとめ、推進しました。団体間が完全対等だったり、ある団体が頭となってリードするなど地方によって特色がありました。

●裁判の進行を伝える大変さと意義の大きさ
 高知のような地方の関係者は傍聴には行けませんから、署名で協力することと、裁判の状況を常に把握し関心を持ち続け学習することが大事なことでした。そのために重要だったのが点字民報をはじめとする伝える取り組みです。私たち視覚障害者は受ける影響の大きさは一番ですが、裁判の直接の当事者でないため裁判日程も知らされません。口頭弁論では原告や被告が「提出文書の通り」と発声して終了。内容を詳しく知るためには、後日閲覧するしかない。スマホでカシャとかコピーは御法度。手書きで要点を書き写すしかないのだそうです。おかげで全視協は多くの会員が情報共有し、この裁判に向き合えたのではないでしょうか。

●視覚障害者への合理的配慮
 多くの視覚障害者が傍聴したことにより、誘導や、裁判長などの発声を聞き取りやすくするなどの環境整備が一定進みました。

●関心の高さが最高裁判所を動かす
 今回の最高裁判決では、その理由として「上告理由に当たらない」「判例に照らしてあきらかである」と述べており、このような場合、判決言い渡しの場をわざわざ設けないのが最高裁では通例のようです。あえて設けて昨年2月7日に言い渡したのは、視覚障害者の傍聴や署名を通じて裁判所に訴えた関心の高さが動かしたのです。

●裁判は完全勝訴、そして
 裁判所は訴えについてのみ判断するところであり、視覚障害あはき師への積極的施策については論じられていません。この数年間、裁判にエネルギーを集中してきましたが、再び積極面でのあはき運動を進めることが大切です。
 元埼玉盲理療科教員でもある東郷さんのモットーである「正しさは厳格だがわかりにくい教科書に対し、厳密さは一歩譲ってわかりやく噛み砕いた教師の授業」の通り、とてもわかりやすいお話でした。登場してくるプレイヤーも生身感が伝わってくる肉付け、学習会の参加者を時々「舞台」に上がらせるなど、人に伝えるのが上手だなと感じながら学ぶことができました。

§ 第56回守る会総会(2023年度)の報告


生田 行信
 新型コロナの影響も落ち着いて5類感染症に移行して1ヶ月の6月4日(日)、久しぶりに出席の会員も含め27人の参加で高知市障害者福祉センターにおいて開催しました。今回も机と椅子はお互いが向き合わない教室方式、時間は従来より少し短めの2時間半で行いました。
 永田副会長の進行で「開会セレモニー」が行われました。開会にあたって井上会長から挨拶がありました。最近の物価高騰は私たちの生活に大きく影響している。マイナンバーカードの不祥事など心配なこともいろいろと起こっている。デンテツターミナルビル前の点字ブロックを要望し続けているがまだ実現していない等、要求運動を粘り強く続けていくことが大事と考える。そのための総会となるよう活発な論議をお願いしたい。
 議長には津野一美さん、選管に田所良子さんと中平多恵さん、記録に生田が選ばれ拍手で承認されました。総会は現在の正会員数50人に対し、出席者27人と委任16人を合わせて過半数で成立が確認されました。今年は役員改選の年であり、選管から会長1名、副会長2名の立候補、推薦を受け付けるので16時までに申し出てほしいとの公示があり、続いて議事に入りました。
 2022年度活動報告が各担当部長から、決算報告を山崎財政部長、監査報告が北村みずほさんから、2023年度の活動方針(案)提案が一括して井上会長から、同予算案提案が山崎財政部長から行われ、活発な議論の後、拍手で承認されました。
 以下、質疑の概要を報告します。

●点字投票について
 今回の統一地方選挙で点字投票の無効票が増えたそうだが、しっかり判読すれば無効票になることはよほどのことがなければおこらないと思う。「2の点が薄い」等の点字を厳密に判読しているのではないかと推測している。墨字では字がはみ出たり曲がったりしても、また1文字くらい間違っていても、立会人全員の協議で候補者を特定できると判断すれば有効票にすると聞く。点字50音表を立会人全員に配布して点字判読者ひとりの判断にならないように求めていく。点字使用者だが点筆で書くことは普段めったにない。我々自身も投票前に点筆で書く練習をしておくとよい。
 その選挙区で点字投票が一人だけの場合、誰に入れたかわかってしまう。選管に何らかの対応を求めたい。点字投票が複数になる工夫として、晴眼者も点字投票してもかまわない。
●高度化ピックス信号機
 高度化ピックスについて、多くの会員から体験会を踏まえ安全につながらないので反対する意見が出ました。会の方針として、警察に対し導入しないよう求めている。マスコミ向けや全視協内での論議でも反対、音響必須の立場で臨んでいる。視覚障害者自身がどう評価するかが大事になってくる。他の団体やマスコミ報道で肯定的に評価されると、「技術進歩の恩恵が障害者に」という論調で導入拡大につながってしまう。
●デジタル化による課題
 デジタル化による視覚障害者への影響が見逃せない。飲食店でのタブレット、スマホ注文が急増している。このままでは視覚障害者は外食できなくなる。広まってしまってからでは遅いので、対応を求める運動が大事だと思う。新聞への投稿などで社会に訴える努力もしていきましょう。
●守る会会費長期滞納について
 井上会長から、会員の意見を聞かせてもらいたい旨の投げかけがあり、次のような意見に沿ってご本人の意思確認をすることになりました。
 本人が会に残りたいのかどうかである。残りたい場合は支払うし、そうでなければ未納で決済し退会ということになるだろう。退会した場合でも会費を支払って再入会することは可能である。別の団体では支払いがなければ退会となっている。
●夏の自治体交渉への要望
 井上会長、藤原自治体対策部長から呼びかけがありました。6月30日提出に向けて集約中である。要望をこの場で出してほしい。以下、出された要望です。
・デンテツターミナルビル前からバス乗り場への点字ブロックを引いてほしい。(長年の要望)
・高知の電停は、電停ごとに手前か向こうかの位置が異なっている。各電停の位置関係を周知する手立てを講じてほしい。
・帯屋町にエスコートゾーンをつけてほしい。商店街や道路管理者の現在の回答は「歩道や横断歩道ではなく車道なのでつけられない。時間帯によっては車が入る。」だが、協議を続けていく。
・帯屋町に公衆トイレができたらしいので、入り口を示す警告ブロックを付けてほしい。
・トイレの構造がわからなくて困ることがある。統一化されていればわかりやすくなる。基準作り、共通化などしてほしい。高知市の場合「人まち条例に決められていない」で止まっている。人まち条例の次の改正は先になるが、改善や要望の反映に向けて、検討委員会をはじめ声を上げていくことが大事である。
・デンテツターミナルのトイレの状況を聞きたい。地下に公衆トイレがあるが視覚障害者には不便。ですかコーナーの近くにもあるようだが「公衆」かどうかわからない。
 運営面についての意見
・夏は暑いので、交渉を秋にできないだろうか。次年度の予算に生かすためには7、8月がぎりぎりの時期なので、例年この時期に行っている。
・陳情文を読むのに時間がかかり、質疑応答に使える時間が少ない。運用に何か工夫してほしい。
●自治体交渉の日程紹介
 例年通り木曜午後を予定しているので、交渉の場への参加協力が呼びかけられました。
 高知市と高知県 8月3日、17日、24日、
31日
 高知県のみ 9月7日(この回のみ夕刻)

 議題以外では、盲学校との連携について発言がありました。例えばあはきに関しての質問やアドバイスなど、連絡をとりやすいつながりをもてるといい。日頃からものを言いやすい関係性があれば、大きな課題が生じたときにも意見を伝えやすいし、現状も聞きやすい。盲学校、特に理療科の生徒数激減を心配している。これは高知盲だけのことではなく全国的課題であることは承知している。守る会、同窓会、理療科で話す場を設けてはどうか。役員会で検討をお願いしたい。 中平晃さんから、パソボラを有効活用してほしい。情報を知っているかどうかで生活や制度利用などいろいろなことがかわってくる。体験、お悩み相談、どんな形でもいいので、申し出を待っています、とアナウンスがありました。

 役員改選は、会長に井上芳史さん、副会長に藤原義朗さんと永田征太郎さんを、久保博哉さんから推薦があったことが選管から報告され、各候補者について拍手で承認されました。続いて、井上会長からこの1年間の各役員について報告がありました。
 事務局長 井上芳史
 事務局次長 生田行信
 青学部 永田征太郎(青学部内で決めている)
 学習部 藤原義朗
 あはき対策部 生田行信
 自治体対策部 藤原義朗
 編集部 井上芳史
 点字民報 生田行信
 会計 山崎辰雄
 レク部 大野俊一
 組織部 大野俊一

 全ての議事が終了し議長解任の後、有光元副会長から閉会の言葉がありました。昨年罹った病気について、検査や手術などの体験、医学的なしくみ、病気の捉え方や心構え、気をつけることなどがとてもわかりやすく話され、皆さんの健康管理や病気と向き合うときの参考にしてほしいという思いが伝わってきました。
 近隣の喫茶クレイトに場所を移し、夕食交流会を13名の参加で行いました。今回も料理を全て一人ひとり食器に分けて提供してくれました。ありがとうございました。

 ※会計監査委員を北村みずほさん、大黒妙さんにお願いしていましたが、総会の場での報告をぬかっておりました。この会報において承認をお願いします。会長として誠に申し訳ありませんでした。

§ 第36回全視協奈良大会に参加して


井上 芳史
 6月17日は社員総会、18日は視覚障害交流会が奈良の日航ホテルで行われました。高知からは生田、井上、浜口、藤原、松田さんの5名が参加しました。
 社員総会で2点報告をします。1つは全視協の事務局長をされていた黒岩さん、会計をされていた千田さんが亡くなっていたことです。二つめは青森の組織が活動できなくなり退会したことです。また、懇親会で広島の方から「参加者の元気をいただいた、2年後の東京大会に向けてがんばっていきたい」と決意表明がありました。
 私は18日の「音響信号機、エスコートゾーン」の分科会の報告をします。
 参加者は25名ほどで、福岡と吹田市、高知の取り組みの報告がありました。吹田市には必要な箇所に音響式信号機、点字ブロックが敷設されていなかった。他の障害の方たちと要求、5年ほどかかってやっと実現した。
 京都からは点字ブロックが交差点にあっても歩道には切れていて、つながっていない。要求をとりまとめて実現させていきたい。
 岡山からは田舎に暮らしていて、音響式信号機は敷設されていない。バス停に行くのに道路を渡りたいが、押しボタンを押すが信号が青になったのかわからない、車も通らなかったり数台立て続けに来たりして危険な状況が報告されました。
 高度化ピックスの話題もでました。交差点から離れているのにスマホが反応するので、どこから交差点なのかわからなく不安だった。音響式信号機も設置してもらわないと安心、安全に渡れない。
 最後に印象に残ったのは地域住民に理解してもらい、鳴らす時間や音の大きさを考えていかなければならないのではないか。時間がかかっても理解してもらうことが大切ではないか。
 コロナ禍で会うのが難しかった3年間、久しぶりに会えた仲間、お酒を飲みながら会話をする仲間、本当に再会できて良かったなと思う大会でした。ホテルの職員の方も親切に各フロアーでエレベータの案内をしてくれました。視覚障害者とボランティアを含めて200名を超えた参加者でした。奈良の実行委員のみなさん、ありがとう、お疲れさまでした。

§「第36回全視協、奈良大会」代議員会報告


                浜口 誠一

 詳細につきましては、後日書かせていただくことにしまして、期日の制約がありますので、簡単に報告します。
 全体会での報告:楠田房雄理事から大変まとまった報告がされていました。「点民」に掲載されるでしょう。
 初めに逝去された会員に対して、黙祷が行われました。黒岩さんと千田さんが亡くなられています。
 議案書に沿って、報告されました。
 報告の中の、「憲法破壊」の前に「民主主義と」の文言を挿入してもらいました。ささいな言葉の問題ではありますが、以後の高知からの質問や提案に先立ち言うことは、細かく聞こえても大事だと考えていることは、高知としては「譲らないよ!」との態度を表明しておくことを考えての意見でしたが、皆さんは、いかが思われるでしょうか。
 「高度化pics」を中止にさせる提案は、かなり強く発言しましたが、音響式信号機の設置・増設が前提にされるとのことで、折り合いをつけました。
 さらに、「マイナカード」による保険証のパスワードの入力がタッチパネルで音声の案内がないことへの対応も発言しましたが、当然である、という対応でした。しかしながら、身についての議論が行われたとは、私自身は思いませんでしたので、今後の成り行きを注視する必要ありだと考えています。
 その他、多くの質問と意見が出されました。神奈川、大阪、兵庫、福岡などの発言が目立っていたと、私は思いました。
 特に、大会の日程で、観光と社員総会を同時にすることへの神奈川からの反対の発言は、私としては、「無理なことを言っている。」ように思いました。
 さらに、レクリエーションの方針に「タンデム自転車の活用」を進めていただきたい。とも発言しましたが、何ともうやむやのうちに議事が進行してしまいました。
 久しぶりの大会参加であり、発言の言い方などの自信も全くありませんでしたが、皆さんからの質問と意見は、何とか出してきました。

分科会報告(デジタル)
 詳細は、資料が配布されていますので、細かいスマホアプリなどの説明が多く、それをご覧いただくことにします。
 分科会では、50名ほどの参加で人数は一番多いとの話がありました。
 ゲスト(いわゆる助言者)の「公益社団法人NEXT VISION」の和田浩一さんが講演をされ、それについての質問が中心で、仲間同士の発現の時間が15分程度で少なかったために、私の周辺の数人の人たちは「もっと皆の情報と意見を出し合うことが必要ではないか。」などの疑問が囁かれていました。
 私も和田さんは、友人ではありますが、発現時間などが長く、担当者の配慮でもあったのでしょうけれど、確かに各地の現状を出し合うことが大切ではなかろうか?とも思った次第でした。
 最後になりますが、スマホの活用方法を教えてくれる「先生」は必要だと思いました。

§「出るわ出るわ 福祉分科会」      〜 全視協奈良大会報告 〜


藤原 義朗

 私が、全視協大会の分科会で「福祉」の担当をするのは6期連続である。
 今までは、レポートを揃えたり、法律や資料をしっかり準備しすぎた為、細かい意見や質問をひろいきれなかったという課題がある。
 そこで今回は、資料やレポートは最小限にし、参加者から質問や経験をどんどん出してもらう方法で行なった。
 医療機関へかかった時の職員の介助方法や、家族が要介護になった時の課題、いわゆる65歳問題や新高額障害福祉サービス給付制度という、5年以上障害福祉サービスを利用していた人が、65歳になっても障害の時と同じ負担額で介護給付が受けれるという制度であるが、知らない方もおり、それが使われていない課題。これを追及すると福祉に負担のあることの矛盾がうかがわれる。また、同行援護が同じ市内で一律40時間という自治体があるなど、必要度が人により違うのに一律はおかしい、歩くのにお金がかかるのはおかしいなど話していく程、制度の矛盾がよく見えてきた。
 他に、一人暮らしで借家や施設入所の保証人の課題、死後の始末はどうしたらよいか、などなど数えきれない程の話が出てきた。
 まとめとしては、
 1.コメントをさせていただく中で通知や使える制度などあるので、全視協ホームページにアップすること。
 2.正岡相談役が全視協役員をされていた時から、培ってきた「みんなが先生、みんなが生徒」を貫く分科会にできたこと。
 3.憲法25条の尊さを参加者みなで痛感出来たことが収穫であった。
 尚、参加者は32名であった。

§ 「窓」  〜「耳の新聞」のった歌〜


 青森県八戸市の短歌の会に昨年10月、青森放送のラジオ番組が取材に来た。
 パーソナリティーをつとめる小田垣康次さん(80)があいさつし、レコーダーを回す。一首ずつ、会の講師が講評していく。
 メンバーの寺本一彦さん(71)はいつもなら積極的に発言するのに、緊張でうまく話せないでいた。
 1978年5月。寺本さんが店番をしていて、たまたま聞いたのが小田垣さんの番組の初回だった。
 「みなさん、こんにちは。『耳の新聞』の時間です。耳の新聞は、視力障害者のための番組です」
 耳をすました。当時、盲学校の教諭だった小田垣さんらが出演し、楽器やスポーツを楽しむ盲学校の生徒たちの様子を伝えていた。
 寺本さんはうまれつき左目が見えず、右目もほとんど見えなかった。大学まで進んだものの、友達ができなかった。両親にお膳立てされるまま、市内で食料品店を開いたが、両親がいなくなった後を思うと心配が絶えなかった。
 番組に出会ったのはそんなときだった。
 ラジオで聞いた盲学校に行けば、仲間ができるかもしれない。不安を解消できるかもしれない。32歳で意を決して高等部の門をくぐると、小田垣さんが迎え入れてくれた。
 小田垣さんは全盲だった。寺本さんはあんまを習い、休み時間にオセロを楽しんだ。記憶力抜群で勝負も強い小田垣さんと接すると、努力すれば何でもできると思えた。
 その後、結婚。店も客に恵まれた。ところが、53歳のとき、17年連れ添った妻千恵子さんを病気で亡くした。自分も右目の視力を失った。途方に暮れる中、ふと思い出したのが、盲学校をやめた後に小田垣さんが口にした言葉だった。
 「学校を去っても、ただ一人でいるのではなくて、人とのつながりは持っていてほしい」
 盲学校の卒業生の会合にでかけてみた。短歌の会に誘われ、それから毎月、顔を出すようになった。千恵子さんのことも歌に詠んだ。歌集もつくった。
 〈指先は 目(まなこ)となりて 触れて読む 明かり消す部屋 掛け布団の上〉
 寺本さんの短歌が読み上げられた。電波に乗って届く自分の作品。自慢するほどの歌じゃねえ。ちょっと恥ずかしいや。そう思ったけれど、やっぱりうれしかった。40年間、苦しいときはいつも隣に小田垣さんの声があった。日曜日の朝、ラジオの時間がまたやってくる。(板倉大地)           朝日新聞2018年12月2日記事



▼ 守る会の移動用 ▼

 守る会 みちしるべ メニュー 

 守る会 メニュー 

 守る会 トップ 
↑http://mamoru-k.net/