「みちしるべ」2003年2月号より

支援費制度でどうする(1)
               藤原義朗

1.はじめに
 役所から届く点字のパンフレットには、「ノーマライゼーションの実現」「同等の立場で」などと書いてありますが、「実際支援費制度になって何が変るのかわからない」という声をよく聞きます。
 「支援費制度になって障害者福祉は変る」とか「変らない」など、いろいろ推測されていますが、視覚障害者にとっては「変る」と私は思っています。
 今回、役所からの文書と同じような事を書いても面白くないので、そこに書かれていないことを書こうと思います。また、「支援費制度」は社会保障の一部です。ですから「支援費でどうなる」というのではなく、「支援費で私たちはどうする」という観点で書いてみます。

2.支援費の枠組みと手続き方法
@三角関係が壊れる
 4年前の社会福祉法の改定の後、福祉を「買う」サービスとして「措置から契約へ」という利用契約方式のトップバッター「介護保険」がスタートしました。支援費制度は介護保険と基本構造がよく似ています。
 今までの措置といわれる福祉は、利用者である住民が役所へお願いをし、役所から事業所を介して直接サービス提供がなされてきました。そこには、利用者と役所と事業所の三角関係が成り立っていました。それが、支援費になると、利用者が直接事業所へサービスの依頼契約を結びサービスが提供される。事業所は支援費を行政に請求する、という方式で利用者と役所との直接関係/直接責任が無くなります。
行政と住民との直接関係が無くなってしまって本当によいのでしょうか。
 一昨年の西南豪雨の際、地域の人たちの結びつきが命を守ったと云われています。
今後、市町村合併などで郡部の公務員やお世話役などが減らされ、その上、行政との直接関係がなくなるのであれば、本当に地域が守られていくのか心配です。余談ですが、郡部の村によっては、青い鳥葉書も役所が手続きし配布してくれたり、災害時の救援マップなども作られています。
A何が支援費になるのか
 身体障害・知的障害など、障害によって支援費になる制度が違いますので、私たち視覚障害者に関わるものを述べてみます。
 まず、居宅支援事業といわれるホームヘルパー、デイサービス、ショートステイです。ガイドヘルパーもこの中に含まれます。それと、入所における更正、授産、療護などの施設です。
 支援費に移らないものは、日常生活用具や補装具などの給付、小規模作業所などです。また、介護保険の対象となる方、例えば、65歳未満でも15特定疾病の方は介護保険優先になります。また、生活保護の方でこれらのサービスを受けられる方は手続きが必要となってきます
B手続きについて
 市町村役場に支援費の申請をします。高知市などは元気生きがい課の職員が家まで訪問し聞き取り調査が行なわれます。現在サービスを受けている方の家には順次訪問している所です。市町村は申請の内容によって審査を行ない,支援費を支給するかしないかを決定します。支給が決定すると受給者証が本人に渡されます。サービスを受けたい方は受給者証を持って事業者と契約を結びます。サービスが利用者に提供されると利用者は事業所に負担金を支払い、また、役所から事業所に支援費が支払われます。
 尚、受給者証は高知市の場合、3月上旬に送られてくる予定です。また、施設入所の方の場合には、04年3月まで「みなし規程」が適用され、02年度中に申請する必要はありません

3.なぜ支援費制度なのか
 では、一体なぜ支援費に変るのでしょう。厚生労働省は「自由に選択できる」などと体裁のいい言葉を並べていますが、要するに、国の社会保障費削減が狙いです。
 現在、年金の削減、医療の自己負担の増大など社会保障が攻撃されていますが、当時の橋本内閣が「老人福祉の充実の為」と云って介護保険を押し付け、国民の負担額を増やし,国の老人福祉予算を減らしてきたように、国は支援費導入によって障害福祉予算を現在の98%に引き下げる事を目論んでいます。つまり、措置制度では金がかかって困る、というのが政府与党の本音です。
 もう一つは、責任の問題です。かつて、納裁判という世田谷区に住む全盲の女性がホームヘルパーから3千数百万円盗まれた事件がありました。判決は区には責任がなく、ヘルパーを斡旋した家政婦派遣所にあるというものでした。そのように責任が直接行政に行きにくい仕組みが作られようとしています。
 3つ目の点は、国は障害者制度も介護保険に組み入れようとしたり諦めたりする中で出てきたのが今の支援費案です。高齢者の場合は介護であっても、若い障害者の場合はニーズがはるかに広く介護だけでなく、自立の為の援助でなくてはなりません。
 そこで、介護保険との大きな違いについてのみ述べてみます。
・サービスメニューが介護保険の方が在宅サービスを中心に多い。
・介護保険が全国統一の調査項目で公的な介護度の判定委員会があるのに対し,居宅介護の支援費支給決定は市町村に柔軟性をもたせた判定となっている。
・支援費にはケアマネジャーの義務付けはない
・利用料金は、介護保険が1割負担に対し、支援費は収入や税額によって変化する応能負担である。
 などです。尚、介護保険が良いなどと云っているわけではありません。若い人こそ、セルフマネジングし社会資源を見つけて社会参加する事が必要になっており、介護保険と違うことは当然の事だと思います。

4.それでは何が問題なのか
@肢体障害者中心の制度
 介護保険の時にも、その調査項目は運動障害の評価項目でした。視覚や聴覚障害は非常に評価が低く出て重い介護度は出ません。支援費の調査項目をみても、運動障害に関する評価項目が多く、よほど視覚障害のことを知った役所でなくては障害に応じた支援決定がなされない心配があります。特に、夜盲や視野狭窄などの弱視の障害や中途視覚障害のことも勘案されるでしょうか。また、点字の世界を知らない職員が、触読の可否によって違う生活レベルの差を判定できるでしょうか。
A12月に内示された基準単価は、施設入所の場合、軽度と判定されやすい視覚障害者の単価はより安くなりました。視覚障害者の中にでも、一人生活はもう出来ないという相談もあります。施設から在宅へという政策誘導の流れの中で視覚障害者の入所はかなりむずかしくなる可能性があります。
A事業所は成り立つのか。
 支援費になると、事業所の経営はアップアップになります。介護保険をみても、制度開始と共に「儲からない」という理由でデイケアをやめた所もありました。果たして、安い単価で事業所は成り立つでしょうか。特に、視覚障害の場合のホームヘルプは身体介護でなく、家事援助が中心です。予定されている単価が1時間以内1530円という安い単価です。また、ガイドヘルパーも家事援助と同じ単価設定で、事業所としては視覚障害に対するサービスは不採算部門になってしまい、敬遠される心配があります。今でも、高知県内でガイドヘルパーを実施しているのは数自治体にすぎません。ガイドヘルパーをどこの町でもという私たちの願いとはかけはなれてしまいます。
Cサービスメニューの足りない地域では、支給決定の際、作為的に決定がはずされる危険性があります。
B視覚障害者が事業所を選べるか。
 それでは、あちこち存在する事業所を視覚障害者が選べるでしょうか。高知市は点字やインターネットで検索できるようにすると云いますが、視覚障害者の中における点字習得率は1割以下。私のように点字も、墨字も、パソコンも苦手という者はサービスから置いてけぼりになる可能性があります。その点では、在宅介護支援センターや障害者支援センターが、各事業所の特徴を知らせられるかどうかが鍵になります
C出てきた上限設定
 満を持して1月はじめ、厚労省から出てきたのはホームヘルパー利用時間の上限設定です。重度障害の人にとっては深刻な問題です。抗議の輪を緊急に広げなくてはなりません。
Dスピーチオ
 利用契約方式は利用者と事業所が契約を交わしてスタートします。厚労省は、4月よりスピーチオを日常生活用具給付品目にする予定です。これは、パソコンのワード文書にSPコードといわれるソフトでバーコードのようなものに変換し、そこにスピーチオをあてると文書を読み上げするものです。
 さて、事業所が契約書をわざわざSPコードで変換するでしょうか。また、利用者がスピーチオを大枚をはたいて申請するでしょうか。例えば音響信号機の音声発声小型送信機でさえも使っている人は何人いるでしょう。こんな面倒くさい使われないシステムよりは、「ヨメール」などのような日常的に使える読み上げ装置にお金をかけた方が有効に使われると思います。
Eサービス量の管理について
 支援費を支給する事が決まると役所から支援決定通知書と共に受給者証が送られてきます。そこには、支援の種類、ホームヘルパーなら何時間というような支給量、支給期間、利用負担額が記載されています。利用契約方式である為、ホームヘルパーなど利用時間の管理は受給者証を使って自分でしなくてはなりません。点字、大活字や録音版で受給者証が発行されるでしょうか。私のように自分の身障手帳番号さえも覚えられない者もいます。利用量管理する人の配置も必要です。
Hまだわからない負担金額
 さて、問題なのは利用負担金額です。介護保険をみても利用料金が高く利用していないケースもあります。現在会員さんの中にはホームヘルパーやガイドへルパーの料金は無料の方もいれば、反対に料金が高くて利用していない人もおられます。支援費制度による負担額が最終的にどうなるかはまだわかりません。今のところ、利用者が18歳以上の場合、親は負担義務からはずされる事になりました。それも、ここ数年障全協を中心に行なってきた「自立のためにこそ親家族の負担軽減を求める」運動の成果です。しかし、大阪の千田さんのように、息子さんが仕事を始めた途端ヘルパーの高い請求書が届いたという問題は解決されていません。利用料金がどうなるかは、1月末に交付される省令に基づき市町村でそれぞれ負担額が決まります。高知市でも2月には決まる予定です。
I若い人の目的として、自立していくことが要素としてありますが、このような制度では、巣立ってしまえば事業所の経営は厳しくなってしまいます。自立を目指すマネジメントができるのかが心配です。
J障害は重度になるほど新しい事や初めての店などは苦手です。だからこそ、マネジメント役は必要です。そのような時、制度移行においてサービス利用していない人には手続き案内さえも届いていません。大変な問題です。

5.支援費でどうする
 問題点の項とも重複しますが、それでは、私たちはこの制度改定を逆手にとってどうしたらもっと生活をエンジョイすることができるでしょうか。
@手続きの点で個人が注意する事
・市役所の人が訪問するからとわざわざ掃除してケガをした患者さんがいましたが、ありのままの状態を見てもらい評価してもらうことが大切です。
・どんなサービスを受けたいか尋ねてきます。それに基づき支給量が決まります。例えば、「来月から毎週市民講座に行ってみたい」「サークルに通いたいのでガイドヘルパーに来てもらいたい」など、将来プランを立て調査員に話してください。
・支援費支給の決定に不服がある場合には、市町村に異議申し立てができます。聞き取り調査員にどんな生活設計の話をしたのか、不支給の理由は何なのかをキチンとメモしておいてください。
・現在在宅サービスを受けている人は、3月までに手続きを済ませてください。
・支援費支給を受けている人が、例えば家族が病気で入院した為などの理由で介護支援量を増やしたい場合は、支援量変更手続きを早めにしてください。高知市では、「急な場合には、柔軟性を持って対応したいので、すぐ申し出てください」と、云っています。元気いきがい課または、旭の障害者福祉センターまでご相談下さい。
A視覚障害の事をよく知った人/施設づくり
・先ず、聞き取り調査をして判定する市町村職員の人たちです。項目自体が運動障害中心である為、視覚障害の理解を余程伝えていかなければなりません。また、災害の時など緊急事態に関しては措置の適応もあります。その場合の判断にも視覚障害の事をよく知っているかどうかが鍵になってきます。
・支援センターづくり
 ある在宅生活を余儀なくされた全盲の人に対して、支援センターの職員は、デイサービスをマネジメントしました。しかし、本人は「面白くない」と云っています。現在、視覚障害者に楽しめる資源が少ないのも事実ですが、もし、視覚障害をよく知っている人がマネジメント役であったら、例えば、対面朗読、歩行/生活訓練、点字印刷など。また、社会参加促進事業として、視覚障害施設によるコーラスサークルやパソコン教室の立ち上げなど立体的にケアマネージメントすることもできます。視覚障害者の事や資源をよく知っている私たち自身が、マネジメント役になる事も必要です。
・ヘルパーステーションなど事業所の職員の事です。これは説明しなくても皆さんよくご存知のことです。当然、点字の名刺などは所持してもらいたいですね。
・固有の障害に強い事業所立ち上げ
 介護保険のヘルパーステーションが支援費も兼務する所がほとんどです。本当に視覚障害者のニーズに対応できるでしょうか。例えば、盲聾者にはコミュニケーション手段をわきまえた職員が欠かせません。
B資源を多くもつ
・グループホームは、知的障害の人に対してはありますが、身体障害にはありません。しかし、視覚障害に対するグループホームなど支援費のメニューにも拡大していく必要があるのではないでしょうか。
・最近、社会参加促進事業の予算が削られて来ているのが心配です。高知市では障害者福祉センターにその事業は任されていますが、メニューについてはいかがでしょうか。視覚障害者にどんなメニューが必要か提言していきましょう
・趣味など住民パワーを巻きこんだ地域づくりが今の流れです。夜須町の林さんたちが作っている楽しい登山サークルのように社会資源作りが大切です。若い人こそ多様なニーズを持っており、それをマネジメントしていく人と資源づくりが今後の鍵になってきます。
C守る会など組織の課題
・対県対市交渉では、ヘルパーの質の向上について力を入れてきました。これからは、支給決定は役所ですがサービス内容の責任は事業所になります。高知市は「事業所に指導します」と云っていますが、プライバシーに気をつけながら事業所と関わっていく事も必要になるでしょう。
・情報が大事に
 自分で選択していく制度こそ情報障害者には不利な制度です。例えば、数年前の国会の資料を見ていたら、「障害者家庭の子育てもホームヘルパーにしてもらってもよい。」という記録を見ました。しかし、実際ヘルパーに頼んでも、「それは、私の仕事ではない」と断られた、という声はよく聞きます。私たちは情報をしっかりと把握し、少しでも良い運営をさせていくことが大切です。みちしるべの「こんな風にかわります」は特に重要になってきます。
・事業活動は誰かがやるだろうではなく、自分たちで立ち上げる発想も必要になってきます。例えば点字印刷、運転手と組んでの往療、ヘルパー派遣や晴眼者に対する人づくりも含めた点字教室、視覚障害の便利用品展示販売などを含めた総合的視覚障害ホーム構想も必要でしょう。どなたか退職金をポンと出していただける方はおいでませんか。また、共同出資で法人格をとってやってみませんか。
・このような制度では、セルフマネジメントできる人はどんどんステップアップできますが、情報障害や中々意欲を持てずにいる人はステップダウンの危険性があります。訪問しながら資源を見つけセルフマネジメント力をつけていく活動が大事です。つまり、この制度はもともと社会保障削減計画のものですが、生かすも殺すも私たちの活動しだいという面もあります。

6.終わりに
 この正月、山陰地方を旅行していたら、中海の水門を作ったり埋め立てたり、諦めたりなど相変わらず無駄な土木事業を見てきました。「日本は通る車も無い道路や橋作ってどうするんだ」と、世界中の笑い者になっています。
 それに対し、社会保障費の軒並みの切り捨てです。人に会ったら「あー、大変だ」という挨拶や年賀状が目につきます。
 そのような中でも、共同の輪で社会の枠組みを作り変える2003年、21世紀にしていきたいですね。



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