「みちしるべ」2004年4月号より

支援費制度でどうする(5)
               藤原義朗

 3月のはじめ、高知新聞の読者欄へ次のような投稿がありました。
「今までホームヘルパーさんに新聞や新刊本を読んでもらっていた。しかし、高知市からヘルパーさんに読んでもらうことはできない、と言われた。楽しみを奪わないで下さい。」というものでした。書かれたのは旭天神町在住の全盲の画家である宮本初義さん(83歳)です。
 読者の皆さん、この話を聞いていかがですか。果たして、在宅で読んでもらえるサービスというものはあるのでしょうか。
 視覚障害者のうち、点字触読可能な人は9.0%(日本盲人福祉研究会調べ)など、1割以下という推計がいくつか出されています。私も、一応9.0%のうちですが、フロッピーやカセットの点字シールくらいしか実用できていません。日常的には音訳が基本です。
 また、身障手帳取得者は、視覚障害が日本で約30万人と言われますが、実際読むことに障害のある人は460万人という推計値もあります。介護保険の導入や情報の不徹底などによって手帳未申請の人が多く出てきたわけです。
 そこで今回は、「声による情報保障」について考えていきたいと思います。
1.ホームヘルパーさんに読んでもらえるの?
 ホームヘルプ事業実務問答集では、「郵便物・回覧版などの代読」「手紙・アンケートなどの代筆」という例が挙げられている程度です。つまり、厚生労働省としてはホームヘルパーの家事援助の一部であり、音訳が主な活動ではないという解釈です。ヘルパーさんに家事をしてもらうついでに、新聞のテレビ欄を見てもらう、ということです。
 さて、介護保険では「生活援助」、支援費では「家事援助」と呼ばれますが、支援費では障害特性に応じた独自部分があり得ると解釈されます。しかし、読んでもらえる範囲について書かれたものは見当たりません。いずれにしても、音訳が主になってはならないということです。
2.高知点字図書館の機能
 情報保障の中心である高知点字図書館の活動についておさらいしてみましょう。
 点字・録音図書の貸し出しから始まったこの施設も、IT機器の発達に伴い情報提供施設として幅を広げ、次のような活動をしています。
 @図書の貸し出し
 点字本、カセットテープ録音版、プレクスト−クで聴くデイジー版の3種類が貸し出されています。全国の約100の視覚障害情報提供施設から館を通じて全国から図書を貸し出し することができます。
 A点訳・音訳ボランティアの養成…年間約30名養成
 B委託本の点訳・音訳
 C対面読書…本や資料など、音訳ボラの方に点字図書館で読んでもらえます。
 DJBニュース(点字新聞)発行…約30名の利用者に郵送
 E録音雑誌の貸し出し…約50名の利用者に郵送
 Fレファレンスサービス…情報寿司屋への「とぎ」など頼んでいる人もいます。
その中で、会員制の有償ボランティアサークルを紹介します。
○さわやか高知(821−0550)
○高知手だすけセンター(875−7642)
 C電話やパソコンによる音訳サービス
 ・電話で新聞を読んでくれる
○ゆいの会(東京)(03−3365−2000)月〜金 10時〜16時
○ロバの会(京都)(075-791-7037)
 BBフォンなので、BB同志なら電話代もかかりません。
○リーディングサービス横浜会(神奈川)(045-663-5656)月〜土 10時〜15時
 ・電話で辞書を引いて読んでくれる 
○電辞サービス(愛知図書館)(052−212−2323)図書館の開館日10時〜17時
・一旦読んだものをパソコンや電話で聞き取る
○日本フィランソロピー協会(03−5252−7580)ファックスや郵送などで送ります。月五百円の会員制
・企業による使い方案内 ソニー サンヨー 資生堂 花王 ライオンなど、電話したら使い方は教えてくれます。
 Dその他
 直接読んでもらうものとは違いますが、CS放送のスカイパーフェクトTVでの日本福祉放送では、朝刊と夕刊の五大紙の抜粋を読んでいます。また、高知点字図書館の「すばる」でも、高知新聞の中からローカルな話題を選んで音訳されています。
 そして、郡部の市町村に行くと、音訳グループが地道に活動している姿を時々見つけることがあります。
4.録音刊行物
 私は、現在22種類の音訳の週刊誌や月刊誌を購読しています。「カープアスリートマガジン」など個人的には色々面白いものを紹介したいのですが、ここでは、高知県や高知市、そして、その外郭団体における官公的な定期刊行物を紹介します。
 @さんさん高知 A県議会だより(以上高知県)
 Bあかるいまち C高知市議会だより D合併協議会だより(以上高知市)
 E高知点字図書館だより Fすばる(以上高知点字図書館)
 Gバリアフリーマガジン「げんき」(高知市障害者福祉センター)などです。
 以上、全部カセット版が発行されています。
5.発受指定
 録音物を発送する場合、その郵送料金が問題になってきます。墨字文書だと定型内料金でいけるものが、カセットテープは60グラム強あるため、定型外料金になります。そこで、教育や学術福祉情報を目的としたものは、低料金または無料で送れる「第4種郵便物」の制度ができたのです。点字の郵便物は、この制度によって無料扱いになっているわけです。
 さて、録音物の発送の場合は、その施設が郵政公社から指定を受けなければ無料で郵送することはできません。これが「特定録音物等郵便物発受指定」と呼ばれるものです。その条件としては、@盲人の福祉の増進を目的とした施設 Aすでに定期的に録音物を発行している事です。かつて、守る会で申請した時には認可に半年近くを要しました。これに指定されると、カセットテープ、CD/MD、フロッピー、点字用紙(新品のもの)が対象になります。
 全視協では、選挙公報の音訳版の発行を要望していますが、自治体も特定録音物の発受指定を受けるようにし、無料で発送できるようにする運動も必要でしょう。なお、この場合「高知市」という自治体名での申請でなく、高知市選挙管理委員会というように部局名での申請になります。

 それでは、ここに高知県内で発受指定を受けた10の施設を紹介します。
・ 高知県視力障害者の生活と権利を守る会
・ 高知県立盲ろう福祉会館
・ 高知県立盲学校
・ 高知視力障害者図書学友文庫
・ 高知点字図書館
・ 宿毛市社会福祉協議会
・ 須崎市立図書館
・ たびびと
・ 点字ワープロ友の会
・ 東洋鍼医学会高知支部
・ 中村市社会福祉協議会
6.アメリカにおけるりーディングサービス
 先日、来高されたアメリカ盲人協会会長のオラールミラーさんによると、「アメリカのボランティア組織には、リーディングサービスの大きなものがある」と、おっしゃっていました。インターネットで見ると、なるほど、新聞や雑誌の朗読番組がぞくぞく、デージー本の製作が盛んで、対面朗読が各地で行なわれていることがわかりました。権利としての「情報権」が進んでいることを感じました。
7.今後の作戦
 @まずは、以上紹介してきた社会資源を利用してみましょう。その中から支援の輪が広がっていきます。
 A社会にアピールしよう。はじめに紹介した宮本さんの投稿は、役所関係には大きなインパクトがありました。情報不足で人権が踏みにじられている深刻な実態を社会に知らせていこうではありませんか。
 B公的な情報保障
 今年策定された、高知県障害者計画の特徴は、「施設から在宅」「ボランティアの充実」「災害対策」などです。しかし「情報保障」が充分なされなくては実現できるものではありません。
 ○支援費制度の枠を広げていく運動。介護保険と比べて支援費制度は「障害の特性への対応が求められています。在宅での読み書きのサポートを主とした援助も家事援助に位置付けることが必要でしょう
 ○図書館の役割
 支援費制度では、負担金のかかる人もでてくる問題があります。情報保障にお金がかかっては困ります。いつでも、どこでも、だれにでも情報を提供することは公共図書館の役割です。高知市の図書館でも点字図書館だけが対面朗読をするだけでなく市民図書館の活動として市内各地で対面朗読を広げていく事が大切です。また、在宅への音訳者派遣のコーディネートもしてもらわなくてはなりません。県の長期  計画を実現する為にも公共図書館の役割が大事になってきています。
 C音訳者の育成
 ○音訳ボラの人に会うと、読み方や著作権の問題、ユーザーとの接点などの悩みをよくききます。音訳サークル連絡会の立ち上げが必要でしょう。
 ○点訳奉仕者講習会があるように、音訳奉仕者講習会も必要でしょう。
 Dテレサポートシステムの発展。2月に長谷川先生を招いて実験したテレビ付き携帯電話を使った案内は、精度も徐々に上がり文字も読み取れるくらいになりました。6月からはAUに次いで、ドコモも固定料金になります。つまり使い放題。また、脊髄損傷の患者さんからは「案内のボランティアがしたい。それが収入になればもっといい」と、期待の声もあります。 「コールセンター高知」を立ち上げようではありませんか。これができると、見える人がいない時でも、ファックスやスキャナーもしやすく なります。
 E専門ケアマネジメント従事者
 以上、ご紹介してきましたように視覚障害の情報障害に対するマネジメントはかなり複雑です。政府は介護保険と支援費制度の統合をといっていますが、介護保険のケアマネジャーが、情報障害のマネジメントをできるはずもありません。視覚障害専門もしくは情報障害専門のケアマネジメント従事者の養成が必須です。
8.おわりに
 パソコンも苦手、点字も苦手という視覚障害の人への公や民からの情報提供は充分なされてきたとはいえません。中には「ニーズがないから」といって音訳提供をしていない部局もあります。しかし、当事者に、どんな情報があるのかを伝えなければニーズなど出てくるはずもありません。また、ニーズが出ていてもさぼり続けているところも少なくありません。
 最後に、支援費制度を始めとする利用契約方式の社会では、世の中にどんな資源や情報があるのか、自分自身で掴み計画を立てていく事が基本です。その為にも、しっかりと情報保障を確立するシステムを創っていこうではありませんか。



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