視覚障害者にとっての自立支援法 パート1(7月30日現在)
藤原義朗
「やめろ、人間じゃない」という障害者の叫びの中、自民党と公明党は「自立支援法」を衆議院で、強行採決しました。これは、身体、知的、精神のそれぞれに分かれていた福祉法を自立支援法という1枚のカードできり、2009年の介護保険法との統合へ導いていくものです。政府の目的は財政削減である事はいうまでもありません。
さて、この法は3障害の福祉サービス提供の一元化など一定の前進面はあります。しかし、定率負担の問題や家族負担など多くの問題があります。特に、私達視覚障害者など感覚障害者にとっては、大変不利な法といっても過言ではありません。
今まで「支援費制度でどうする」を連載してきましたが、これからは「視覚障害者にとっての自立支援法」という形で書いていこうと思います。よろしくお付き合い願います。今回は、申請から支給決定までその仕組みと問題点、運動の方向性について述べていきます。
A.比較 申請からサービス決定まで
(1) 診断書の要らない支援費
お住まいの自治体に、直接もしくは在宅介護支援センターや障害者支援センターを通して「ヘルパーさんを利用したい」と申し込めば、役所の福祉担当の方がおいでになり「寝返りが出来ますか」「一人でおふろに入れますか」など聞き取りが行われます。それを基にA、B、Cの3段階に障害程度区分がなされ、生活環境や生活・社会参加ニーズを勘案し、サービス決定がされていました。
(2) ケアマネさん手続き介護保険
―― 医者も慣れてきた
5年前に始まった介護保険では、ケアマネージャーなどを通じて役所に申し出ると、調査員が来て79項目の聞き取りがなされ、結果をコンピューター判定したものに、かかりつけ医の意見書を添えて専門家なる方の認定審査会が行われ、要支援、要介護1〜5の6段階に区分されます。一番軽い要支援では月約6万円までのサービス料、介護5では月約36万円まで使えますというものです。この作業がほぼ毎年繰り返されるのです。尚、この審査には年間約
600億円使われています。
介護保険法での問題は視覚障害単一障害の場合、大変不利でした。非該当になる例が出るのです。良心的な医師などは脳卒中がなくても、「脳卒中の既往」と診断書に書いてなんとか要支援にしてもらったという話も聞きます。
(3)ヘルパーさんに来てほしかったら
医者の意見書を
自立支援法のモデル事業が、先日全国61市町村で行われました。調査項目は介護保険を基に日常生活関連動作や精神障害特有の項目を加え、102項目でした。聴覚や視覚に関する項目は1項目でした。これをコンピューターにかけるのです。この一次判定と医師意見書を基に介護認定審査会が行われ、障害程度区分が決定されました。区分は介護保険と同じ6段階です。こうして見ると、自立支援法がまさに介護保険との統合を目指しての一段階であることは明白です。ここで決定された障害程度区分を基に「社会活動や介護、居住などの状況」「サービスの利用意向」「訓練や就労に関する評価」を勘案してホームヘルパーなどの介護給付の支給量の決定がなされます。
B.視覚障害は非該当か
(1) コンピューターでは表しにくい
視覚障害
102項目に及ぶ調査項目では視覚障害が不利に判定されます。あるモデル事業では、2例視覚障害の方がありましたが、弱視の方が一次判定で非該当、二次判定で要支援、視覚となんらかの重複の方が、一次二次とも介護1という判定でした。
さて、視覚障害の生活障害や社会参加障害を一つのスケールで評価する基準はあるのでしょうか。視覚障害リハ研究会や視覚障害ケアマネ研究者、ロービジョン学会の関係者にもお聞きしましたが、なかなか指標はないようです。二次判定でひっくり返さねばというお答えでした。
(2) 本当に書けるの?医師意見書
介護保険では「主治医意見書」となっているのに対し、自立支援モデル事業では「医師意見書」となっています。つまり、普段かかってる先生でなくても「専門」の先生に書いてもらってもいいですよということです。
さて、視覚障害の場合その障害を表す意見書を書いていただけるでしょうか。まず普段風邪や水虫でかかっている医師が、視覚障害の原因疾患の診断、症状の内容、生活や社会参加の障害、福祉サービスの必要性について証明できるでしょうか。介護認定審査会で一番ほしい情報はそのことなのです。では、眼科の先生には書いていただけるでしょうか。先天盲の方は普段受診されていない方が殆どです。弱視の方でも一部の人を除いたら症状が固定してしまえば年金や難病特定疾患の有期認定くらいしかかかっておりません。
私もPTの仕事で身障手帳や年金の障害認定に携わっていますが、7年前の和歌山カレー事件以後初めての患者さんの場合は、診断書は書いてはいけないようになりました。つまり、林真須美被告の夫が「足が動かない」と詐称して障害認定を受け保険金をだましとり、診断に携わった医師とPTが免許取り消しとなったからです。
また、眼科の先生が原因疾病や治療効果については書けるものの、生活や社会的なもの、必要なサービスまで証明できるでしょうか。全国を見ると、その事に詳しい先生方は若干おられます。しかし、私達も先生方に知っていただくよう努力してきましたが、失礼ですがまだまだです。
上記の専門医に普段かかっていないことについては、知的障害についても云えます。療育手帳は18歳までの診断が原則ですので、それ以降ほとんどの方が受診しておられません。しかし、その意見書は一般の医師では難しいものです。「こんな意見書 書けるか」と、抗議電話もかかってきたそうです。
それに対し、一次判定で比較的有利に判定される整形疾患や脳卒中の方は、その主治医の多くが整形外科医やリハ医であり、障害に関する意見書にも比較的慣れておられます。
(3)視覚にうとい障害保健福祉の
有識者
認定審査会の委員は高知市モデル事業では、精神、知的、身体それぞれの施設の指導員や支援員、高知市身体障害者連合会の代表5名に寄るものでした。また、県外の例でも、介護福祉士や理学療法士、作業療法士、精神保健福祉士などが中心で視覚障害の生活や社会参加に詳しい人はほとんどいませんでした。例えば、点字の世界を知らない人が触読の可否による情報範囲の違いについて述べる事ができるでしょうか。
(4)いつのまにか厳しくなる障害程度
区分
介護保険での6段階区分は、この5年間で1段階程度軽く判定されるようになったと私は感じます。このコンピューター判定ソフトはブラックボックスで公開されておりません。だんだん厳しくなったのです。また、今国会での改悪で要支援と介護1の人の多くが「予防給付」の名のもとに介護給付が大幅に削られます。自立支援法の障害程度区分も気をつけないと後でドーンと厳しくなる危険性があるのです。
C.作戦
障害程度区分では、そもそも介護保険と同じ方式に無理にねじこめたのが問題です。対人恐怖の人、変化に弱い人など障害を持つ人には様々な方がおられます。手続きなどは極めて簡素にしなければなりません。意見書だの102項目などと云っていてはそれだけで利用につながりません。
(1) 甲作戦
介護保険では600億円もかけて決まる介護度というのは「サービス上限額」でした。あと、重度になるほど事業所の収入単価が高くなるしくみのものです。
自立支援法での支給決定の為の勘案は、@障害程度区分と、A環境とニーズです。先日「引っ越してきたばかりでかつ離乳食が始まったばかりのお子さんを持つ全盲のお母さんからヘルパー支給量増やして」と、相談がありました。@で非該当の場合、支給量が確保できるでしょうか。要介護認定結果によらず、生活環境やニーズを中心とした勘案にするべきです。たとえば、勤め始めたばかり、ハイハイが始まった、子どもが入学したなどその環境の勘案が大切です。特に家族が病気した、冠婚葬祭など急な対応が必要です。医者の意見書や102項目などしている場合ではありません。コンピューター判定と介護認定審査会をなくしてもよいのではないでしょうか。
(2) 乙作戦
@ 介護保険でも来年からまた調査項目が増えるそうです。あらゆる障害を一律に評価しようとするから、自立支援では102にもなったのです。調査項目は、もし行うとしても支援費制度での概況調査的程度、もしくはその障害の内容についてのみの項目にとどめること。
A それぞれの障害特性に強い調査員を作っていく事が簡素にするためにも大事です。
B 医師だからといって障害に関する専門家ではありません。特に、意見書は求めない、もしくは医師だけでなく視覚障害社会適応訓練士の意見などその障害に関する専門家でもよいのではないか。
C かかりつけ医で意見書を書いてもらいにくい場合に、意見書書き担当の障害者問題に強い医師を公的に設置すること。
D 介護認定審査委員は障害を持った人や視覚障害について詳しい人など実態を踏まえた人を投入することが必要。
この一次と二次判定については、自立支援法本文ではあまり細かく述べられておりません。今後、政省令で出されてきます。そこに、私たちの意見を盛り込もうではありませんか。
D.地域生活支援事業を育てる
自立支援法では、ガイドヘルパーやコミュニケーション支援日常生活用具給付事業が地域生活支援事業という形になりました。これは、「市町村独自でその状況にあったサービスを行なって下さい。負担割合も独自でお決めください。しかし、国の補助額は50%以下です。」というものです。二次判定で介護給付が支給決定されなかった人に対し、市町村独自の地域生活支援事業で救わせようというのが国の狙いです。先程、介護認定審査会に障害当事者の参加をと書きました。法で決められた介護給付の量や内容で足りない分、認定審査会の人を中心にその地域で必要なサービスの提言や「しかけ」をしてみてはいかがでしょうか。
E.おわりに
介護保険と違い、若い障害のある人のニーズ、視覚障害者のニーズは介護保険法や障害者福祉法の施策で保障できるものではありません。例えば、リーディングサービス、親が障害者である世帯の子どもに対するサービスなどホームヘルパーだけに望むものではないと思います。読みの得意な人、子育て応援団などその道の得意な人を登用できるパーソナルアシスタントのような考え方を目指していこうではありませんか。今こそ、視覚障害者としての意見の出しどころです。読者の皆さまからのご意見をお待ちしております。
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