「みちしるべ」2007年5月号より

視覚障害者にとっての自立支援法 パート9
藤原 義朗
 障害者自立支援法の実施から、1年以上たちました。応益負担の問題、高知市や県および国、制度による上限額の引き下げ、日常生活用具の支給に締め付けなど動きが激しくなっています。
 また、介護保険制度の被保険者・受給者範囲に関する有識者会議の議事録を見ると、自立支援法との統合が水面下で進められていることがうかがわれます。
 さて、今回は障害者自立支援法が本来の自立の目的を果たすために大切なシステムである「異議申し立て」について説明させていただきます。
 私は、昨年4月、法実施直後に、ホームヘルパーによる音訳を求めて介護給付の申請を行いました。9月に高知市より却下通知が来た為、不服審査請求を起こしたのです。自立支援法の給付に関する異議申し立ての方法は、ホームヘルパーや補装具など、自立支援給付の場合は障害者自立支援法による異議申し立て、ガイドヘルパーや日常生活用具など地域生活支援事業に関するものは、もともと市町村事業であるため行政不服審査法による異議申し立てになります。
 私の場合、ホームヘルパーに関する異議申し立てですので、障害者自立支援法による申し立てになります。

【経過】
06年4月 ホームヘルパーによる音訳のみの介護給付を高知市に申請。障害程度区分のための調査やサービス意向のための聞き取り。医師意見書提出。
 9月 高知市より却下通知。
10月 高知県知事に対して障害者自立支援法第97条により異議申し立て。
11月 処分庁(高知市)より弁明書提出、申請人藤原より反論書提出。
12月 高知県に、処分長(高知市)および申請人・藤原がそれぞれ口頭意見陳述。
07年1月 高知県障害者介護給付費等不服審査会(委員5人)開催→高知県知事へ答申。
1月 高知県知事より裁決書交付。
4月 介護給付支給決定(家事援助 月5時間) 音訳のみのホームヘルプ。
5月 障害福祉サービス受給者証受け取り。

【主な争点】
 私は毎日のおびただしい墨字情報の読みを高知点字図書館や高知県立図書館の対面音訳で読んでもらっていますが、それではまったく足りません。
 社会保障審議会障害者部会の資料を見ると、ホームヘルパーの家事援助の中に視覚障害者への代読代筆は入っています。しかし、高知市から厚生労働省に問い合わせると、それは身体介護や掃除洗濯など一般的なヘルプをして余った時間の中で代読代筆がある、おおむね全体時間の3分の1まで、という解釈でした。
 ところが、視覚障害者で対面音訳まで行ける人は一部ですし、対面音訳では時間に限りがあります。墨字洪水の中、「音訳のみはだめ」というのは実態に合っていません。在宅や出先での音訳保障は必要ということで請求を起こしました。

【県に示した資料は】
・高知市情報計画化案
・高知県障害者計画
・みちしるべ「支援費制度でどうする」
パート5
・ホームヘルプ実務実施問答集
・社会保障審議会障害者部会資料
その他、口頭意見陳述の時には視覚障害者の情報環境について説明
【裁決書】
 1月末に、高知県より墨字とフロッピーで送付されてきた裁決書を貼り付けます。

18高障害第1586号 裁決書
(審査請求人)氏名 藤原義朗        
住所 高知市上本宮町239−38
生年月日 昭和35年2月1日    
(処 分 庁)名称 高知市長         
審査請求人が平成18年10月24日付けで提起した介護給付費の支給決定処分に係る審査請求について、次のとおり裁決します。

主文
処分庁が平成18年9月22日付けで審査請求人に対して行った却下決定は、これを
取り消します。

裁決の理由
第1 審査請求人の主張及びその理由
(1) 審査請求人の主張
「高知市長が行った平成18年9月22日付けの審査請求人に対する介護給付費の支
給決定に係る処分を取り消す」との裁決を求める。
(2) 審査請求の理由
私信をはじめ、新聞や書籍など紙による情報はおびただしい量があります。しかし、それを視覚障害者に読んでもらえる社会資源はわずかしかありません。
点字図書館などでの対面音訳を月4から5時間利用していますが、時間が限られ情報
を持ってその場所へ行かなければなりません。在宅や出先での対面音訳を望みます。

第2 処分庁の弁明
本件審査請求に係る請求人が障害者自立支援法の利用意向調査のときに希望した「音訳のみの家事援助」は、ホームヘルプサービスに規程される業務内容の範囲を逸脱し、利用要件に該当しないとして却下したものである。

第3 審査請求人の反論
高知市障害者計画(平成17年3月)や、高知市情報計画案に対するパブリックコメントの回答も、情報保障の必要性を高知市は謳っております。したがって、高知市は音訳のみの依頼であってもホームヘルパーによるサービスをするべきです。
たとえ、それができないとするのであれば、地域生活支援事業でのコミュニケーション事業による音訳者派遣を立ち上げ、在宅や外出先へも派遣できるようにするべきです。

第4 本審査庁の判断
争点について不服審査会に諮問し、答申を受けた内容を基に判断した結果は次のとおりです。
(1)不服審査会の答申を受けての判断
平成9年7月25日付、厚生省大臣官房障害保健福祉部障害福祉課身体障害者福祉係長、身体障害児福祉係長等連名事務連絡で、視覚障害者に対する家事援助の業務として、郵便物・回覧板等の代読が示されていることから、「音訳のみの家事援助はホームヘルプサービスの本来業務と言えない」との理由だけで介護給付費の支給申請を却下すべきではない。
(2)結論
本件について、審理した結果、上記のとおりであり、処分庁が審査請求人に対して行なった却下決定は妥当なものとは認めがたいことから、本件審査請求はその理由があるものと判断する。
よって、主文のとおり裁決する。
平成19年1月22日
高知県知事 橋本 大二郎

行政事件訴訟の提起について
裁決に不服があるときは、裁決があったことを知った日の翌日から起算して6ヶ月以内に行政事件訴訟法に基づき訴えを提起することができます。
なお、原処分の取り消しを求める場合は、処分庁を被告として高知地方裁判所に提起
することになります。

【コミュニケーション事業による
音訳と点訳】
 地域生活支援事業の中にコミュニケーション事業があります。当初は、聴覚障害のある人に対しての手話や要約筆記が主な内容でした。しかし、06年7月の厚生労働省の資料によると、視覚障害者に対する点訳および音訳も入ることになりました。
 これには全国視覚障害者情報提供施設協会などの運動が、背景にあったのだと思われ
ます。
 さて、10月に入り音訳を始めた自治体はあったのでしょうか、07年2月現在、全国30余りある中核市の中で始めた自治体はありません。鹿児島市で「声が上がり何とかしなければ」と思っている段階です。
【考察】
 四国で初めての不服審査請求ということで、県も市も請求人も初めての作業であったが、実際におかれた視覚障害者の実態を示すことで、どうしたらいいのでしょうと、一緒に考えていく場が持てたこと。それが却下の取り消しにつながった。
 なお、高知県の不服審査委員の先生方は次の5人の方です。
 田中整形外科病院 医師 田中稔正
(たなか としまさ)
 細木ユニティー病院 医師 高坂洋一郎(たかさか よういちろう)
 高知女子大学 助教授 吉野由美子
(よしの ゆみこ)
 桟橋みどりクリニック 精神保健福祉士 上甲由佳(じょうこう ゆか)
 高知県社会福祉協議会 常務理事 
上岡義隆(かみおか よしたか)


2.資料集めが大切:「法律は自分有利に読め」という言葉がありますが、そのためには有利な資料を集めておかなければなりません。また、行政の計画やパブリックコメントなどへはしっかりと実態と意見を示して、有利な回答を作っておきましょう。それが肝心な時に役に立ちます。

3.裁決書交付から支給決定まで時間がかかっています。元気いきがい課長に会うたびに、「裁決書が出ても、それで給付できるというわけではないですよ」とか「音訳に応えられる事業所は無いみたい」など、いろいろプレッシャーがかけられました。
 また、高知市から全国の中核市に対して、ホームヘルパーによる音訳や情報コミュニケーション支援事業での音訳について一斉アンケートをとっています。
 つまり、財政が非常に逼迫(ひっぱく)している中、ひとつの事業を起こすのにはそれだけ全国の様子を見ながらの動きになっているのです。
 聴覚障害者の団体が手話と要約筆記に絞って集中した闘いを示したように、私たちも音訳保障を求めて、全国あちこちで運動を起こしていくことが必要です。

4.不服審査請求は、地方自治体の勝手な暴走に対し、ストップをかけていく大切な役割があることがわかりました。また、地域間の格差をなくしていく為にも必要なシステムです。
 昨年、介護保険での高知県(高知市は除く)での不服審査件数はたったの5件でした。異議申し立て手続きには代理人を立てて闘うこともできます。また、公的・私的な相談員の方に手や目を借りて行うこともよいでしょう。
 全国から、また、高知県のあちらこちらから、火の手をあげ、視覚障害者の権利を守り発展させていこうではありませんか。



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