「みちしるべ」2007年8月号より

視覚障害者と自立支援法 パート10
藤原 義朗
 厚生労働省は、年金問題のカモフラージュにコムスンの問題を出してきました。悪徳企業だとか、譲渡先は「ニチイ学館」だとか「居酒屋ワタミ」などといわれていますが、今一番不安を感じ辛い思いをしているのは利用者です。
 別に、私はコムスンをかばう気持ちは一つもありませんが、先日、高知市元気生きがい課長に会った時、「遠隔地でガイドヘルパーを利用したい時、応じてくれるのはコムスンくらい」という話をしました。「そんな役割を持っていたんですか」と、感心されました。
 つまり、介護保険や自立支援法のあまりにも貧弱な制度の法令を遵守すると、ニーズに応えきれない課題があります。その中でも最たるものが、自治体の枠を超えたガイドヘルパーの遠隔地利用です。
 今回は、市町村の枠を超えたところでの外出の支援について述べてみます。

1.厳しくなってきた遠隔地利用
 私は厚生労働省の行政モニターをしています。レポート審査により、今年初めて採用されたのですが、厚労省へ報告書を出さねばなりません。まずは、5月に提出したものを見てください。
 
厚生労働行政モニター報告書
平成19年5月27日
高知県 藤原義朗 男性 47歳 
管理・専門技術職 19−451
題名「自治体の枠を超えた際の移動保障について」 1.実名
 視覚障害者の外出を可能にならしめる手段は、1.ハード的な街の改善 2.ガイドヘルパーやガイドボランティアなどサポートの充実 3.歩行訓練などリハビリテーションの充実があげられます。
 通学や通勤、買い物など日常生活に関するものは、1と3の充実で、ある程度可能になります。しかし、市町村の枠を超えた土地での単独移動は、その土地をよほど熟知していなければ単独歩行は難しいです。その点では、離れた地域での2の課題が大切になってきます。
 私は、視覚障害1級です。県外へ行った際サポートの必要な場合は、@ガイドヘルパー A全国視覚障害者外出支援連絡会(JBOS)などガイドボランティアサークル B観光ボランティア Cガイドヘルパーのネットワーク事業の利用をしています。
 @については、支援費制度で利用契約制度になり、時間に制約のある時は、契約作業をするのが大変です。また、事業所も自治体との連絡や書式の違いなど作業が煩雑になり、利用した事業所の半分が支援費を請求しておらず、無償でのガイドでした。それ以前に、担当地以外の人だということで、契約までいかない所がほとんどでした。
 それが地域生活支援事業になり、ますます遠隔地利用が難しくなりました。Aは、「ヘルパー事業所の営業妨害だ」といわれ、活動が鈍っている所もあります。Bは、その観光スポットが基本で、旅行先での移動をカバーするものではありません。Cは、支援費単価に合わせ利用料がますます高くて払えなくなったり、廃止になったりでほとんど利用実績が上がっていません。
 このように、視覚障害者が旅行する際のサポートは、厳しいのが実情です。サポートコーディネートセンター的機能を全国で共通に持ち、手続きが簡単で、しかも連絡も取りやすいシステムが完成されることを望みます。

 と、いうものです。
次に、それぞれについて解説してみましょう。

3.ガイドヘルパーおよび通院介助
@ガイドヘルパー
 地域生活支援事業に位置づけられたものです。措置制度の時から四国のような田舎では、実施自治体が少ないのが問題でした。地域生活支援事業では「移動支援事業」という名前で必須事業となっています。
 ここに、平成18年度地域生活支援事業実施一覧がありますので、見てみましょう。厚労省から提示されている移動支援事業は(ア)特別支援型――これはマンツーマンによるガイドヘルパーのことです。(イ)グループ支援型――同時に複数の人を介助する形です。(ウ)車両移送型――福祉バスなど車で送迎するタイプです。
 高知県内35自治体のある中で、実施は(ア)が17、(イ)が0、(ウ)が1です。必須事業といいながらも半分しか行われていない実態があります。また、その自治体にガイドヘルパー事業所がなければその土地では利用できません。
[実施自治体]
○特別支援型――安芸市、北川村、芸西村、南国市、香南市、香美市、高知市、土佐市、春野町、越知町、日高村、須崎市、中土佐町、梼原町、宿毛市、土佐清水市、黒潮町
○車両移送型――東洋町のみ
 高知市を例にとると、身体介護の要る人も要らない人も、1時間2800円の単価。負担は応益負担ですので、280円の負担となります。
 全国統一制度であった時の支援費制度時代でも、県外の事業所でガイドヘルパーを利用しようとすると、「一元さんお断り」で、多数の事業所が契約を断っていました。
 また、やっと応じてくれた事業所も、高知市との手続きが面倒ということで、せっかくガイドしてくれたのに、高知市へ支援費請求していない事業所もあります。
 私は、約10箇所でガイドしていただきましたが、半分は請求されていないのです。コムスンは、笑顔で応対し、ガイドし、しっかり高知市へ支援費請求してくれました。
 しかし、問題は、時間に余裕の少ない旅行中なのに、契約するといちいち時間がかかり、契約書を読む暇もなくサインし、判を押すしかないという問題が起こってきました。
 そこで、私は高知のコムスンと契約し、県外へ行く時は、高知コムスンからの委託という形で県外のコムスンを利用しました。昨年は、コムスン横浜と中華街を歩きました。
正岡先生は、先日、コムスン京都と一緒に乗馬と寺巡りをしてこられたそうです。全国で、ガイドヘルパーのネットワークを持っているのはコムスンだけで、それが崩壊したのは深刻です。ヘルパー事業2番手のニチイ学館はガイドヘルパーのエリアは少ないのです。コムスン方式のように全国ネットを組んでほしいと頼みましたが、「コンプライアンス」と言って、法の遵守という建前を使い断ってきました。
A通院介助
 自立支援給付の介護給付の中に、「通院介助」というのがあります。利用料金は、応益1割負担です。
【身体介護あり】障害程度区分2以上で歩行外出項目5つの内2つ以上にチェックが
ついた場合  1時間400円
【身体介護なし】障害程度区分で上記以外の場合  1時間あたり150円
 気をつけなければならないことは、通院が目的のホームヘルパー介助であるため、医療機関への通院途中に、買い物などに立ち寄ることはできないのです。これは、契約時にしっかりと念を押されます。
 また、県外の大学病院などにかかる場合、出発地点がホテルなど自宅以外からの出発の場合は、通院介助という形では利用できません。居宅事業の範疇にあるからです。その場合はガイドヘルパーをご利用ください。
B介護保険を利用した通院介助
 介護保険の対象者で、ホームヘルパーの身体介護の名目で通院介助をする場合があります。利用料金は1割負担です。
【介護度1から5の場合】 1時間あたり 402円
【要支援の場合】定額制ですので、ひと月にいくらと金額が固定されています。
 週1回のサービス利用の場合 
1234円/月 
 週2回の場合 2468円/月
 週2回を超える利用で要支援2の場合  4010円/月

4.JBOS(ジェーボス)
 全国視覚障害者外出支援連絡会の略です。これは、全国各地にあるガイドボランティアサークルをインターネットで結び、「いついつ、高知の○○さんが行くよ」と、メールを送り、当日、現地のガイドボラさんが列車の駅などで待ってくれ、案内してもらうシステムです。私は、インターネットで直接現地のガイドボラサークルへアクセスして依頼しています。
 正岡さんは高知ルーモでの担当である江崎さん(電話841−9011)に、電話
申し込みをし、江崎さんからインターネットで旅行先の団体に連絡してもらう方法をとっておられます。
 私は、出張や観光旅行、そして、カープの応援時などに利用させていただいています。ホームページもあり、コネクト事例など出ていますので、インターネットが出来る方は、ぜひ見てください。全国の皆さんの利用の仕方が分かると思います。

5.観光ボランティア
 わが町の魅力を多くの人に知ってもらいたいという人たちが、各地で活躍しています。私の旅行術は最近これにハマっています。
 今年の夏は、小学3年の娘と一緒に金しゃちの名古屋城、そして、織田信長の犬山城や武家屋敷、木曽川の鵜飼いを楽しんできました。それも、地元の観光ボランティアの人たちのお陰です。観光ボランティアさんは道を実によく知っておられます。また、歴史もうまい店もよくご存知です。神戸の全視協大会の後、正岡さんと三ノ宮観光ボラさんにお世話になったのですが、急に宮城道雄の碑へ行きたいと言い出しても、すぐに案内してもらえました。井上先生から南京町のどこどこの店で待ってるよと携帯電話が鳴ると、その店もご存知で連れて行ってくれる。すごいですね。
 また、姫路城では刀をさした侍姿のガイドさんが、「こちらが殿様の部屋です」と、言って案内もしてくれます。ぜひ、観光案内所に電話し紹介してもらってください。

6.ガイドヘルパーのネットワーク事業
 県外のガイドヘルパーさんを実費で紹介してくれる制度です。高知県もこのネットワークに20年前入りました。高知では、県身体障害者連合会が事務局をしており、旅行先のガイドヘルパーさんに連絡を取ってくれます。
 実費ですので、1時間800円くらいから1,000円くらいが多かったのですが、支援費制度導入後ガイドヘルパー単価に合わせた所が多くなり、1時間1,500円以上の負担という所が多くなってきました。また、このネットワークから脱退していく自治体も出てきました。
 高知県での昨年のコネクト事例はざっと数えて0件でした。使われない制度になってしまいました。

8.公的制度かボラさんか
 京都から帰ってこられた正岡先生に感想を聞くと、「いや〜藤原君、人をタダで使おうっていう時代でなく、業務できちっとしていく時代になっていくのかな」とおっしゃっていました。というのも、心持ちが随分違ってきます。ボラさんにお世話になる時は、「すみません、お願いします」という感じですが、公的制度の時には「こうして下さい」と言える感じがあります。また、いいヘルパーさんに出会った時には、次の機会の時も指名し再会できたこともあります。デンマークでは、「無償制度では当てにならない、有償制度できちっと」というように、完全公的支援制度になっていきました。
 次に、ボランティアさんの魅力ですが、私は、ポレポレ山楽会で毎月四国の山に登っています。同じ仲間という気持ちで登っています。もし、ガイドヘルパーさんと登っていたら、ビジネスではちっとも面白くなかったでしょう。先月行われたボランティアガイダンスではNPOセンターの人が「好きなこと、得意なことをボランティアに生かそう」と、強調されていました。そうです!人間得意なことが一番強いのです、楽しいです。甲子園に行く時は、「カープの事なら何でもしますのでお申し付けください」と、髪を真っ赤に染めた施設応援団の青年がニコニコしながら駅まで走って迎えに来てくれました。

9.ダイレクトペイメント&
パーソナルアシスタント
 それでは、最後にちょっと硬い話になりますが、遠隔地の移動支援も含め北欧やイギリスでの方向性について説明します。福祉制度利用の時の支払い方式は次のような方法があります。
・償還払い――一旦全額支払って、その領収書で請求し、お金を返してもらう方法です。例えば医療機関での装具や義足、針灸あん摩などの療養費払いです。
・代理受領――例えば、医療機関にかかった時、患者が3割分支払い、残りの7割分は病院が保険者に代わりに請求する方法です。介護保険や自立支援法の介護給付も代理受領です。
・ダイレクトペイメント――必要な分は、直接利用者に現金給付され、直接サービスを買う方法です。例えば、学校の就学援助やドイツの介護保険制度です。
次に、北欧のほうで十数年前から始まってきた制度について紹介します。
・パーソナルアシスタント制度――利用者が、様々にある社会資源を購入していく方法です。ですから、ダイレクトペイメントと一体になるのです。スウェーデンやデンマークがこの形になってきました。
 例えば、親が障害者で子育ての時、沐浴など子どもの世話をホームヘルパーさんに頼むより、子どものことの得意な子育て応援団からサービスを買う。読み書きにしても、リーディングの得意なグループに依頼した方が的確です。サービス提供側も、自分の得意なものを生かしていくほうが利用者との関係でも良くいくはずです。
 このように、私が子育て相談を受ける中でダイレクトペイメント、そしてパーソナルアシスタントというヒントを得ました。
 遠隔地の移動支援については、視覚障害者は旅行計画を立て、時刻表を開くところから、情報障害があるために足が止まってしまいます。外出支援コーディネーターなるものを置き、相談しながら、サービス利用していく方法を考えてみてもよいのではないでしょうか。
 皆様方からのご意見をお待ちしています。



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