「みちしるべ」2007年11月号より

視覚障害者にとっての自立支援法 パート11
藤原 義朗
 前回は、市町村など自治体の境界を越えた場所での外出支援について述べました。
今回は、事業所の経営的課題や、ガイドヘルパーさん・ボランティアさんとの経費の負担について述べてみたいと思います。

1.やっていけない今の収入単価
 千葉県浦安に、「エメラルドサポート」という訪問介護事業とガイドヘルパーを行なっている事業所があります。ここの代表の佐藤さんは、20年前、糖尿病で中途失明され、在宅援助がいかに大切なのかを体験され、事業所を立ち上げられた方です。しかも、役員報酬ゼロで運営されてきた方です。
 昨年の赤字は300万円。銀行に融資をお願いしたところ、役員報酬も出せていない
ところには貸せんと断られたそうです。役員報酬をいただくとつぶれるし、いただかないと貸してくれないしと悩んでおられました。
 つまり、自立支援法やガイドヘルパーの割合の多い事業所ほど運営がやっていけなくなるわけです。単価の安さのことは前回も説明いたしました。
 そこで、在宅援助の介護保険と障害者支援との差を簡単に書いてみます。

@高齢者介護の方が「何曜日の何時から何時まで」と、時間割を組みやすくホームヘルパーもタイムロスが少なく廻れる。障害者は、社会参加という突然のことが多くヘルパーのやりくりが行ないにくく、タイムロスが出やすい。
A家事援助など介護保険の方が単価が高い。
B視覚障害者のガイドヘルパーは、落ち合った所からさよならの場所が、違うことが多く、ガイドヘルパーの動きにロスが出やすいこと。
 例えば、1時間1500円の収入単価しかないのに、その前後のヘルパーの移動時間は、合わせて3時間の労働になることもある。
 つまり、障害者のことを中心に事業をしていたら潰れるということです。

2.「いないいない、ヘルパー」
 現在、医師不足、看護師不足が社会的問題になっています。それとともに、ホームヘルパー、ガイドヘルパー不足が大変深刻になってきました。
 ヘルパーさんは、たくさん養成されていると思われるかもしれませんが、あの不規則労働、低賃金の中、また砂を噛むような仕事内容の中、都会では景気が上向いてきたため、ヘルパーさんがいっぺんに辞めてしまったのです。介護福祉士養成校は定員に達しないところが相次ぎ、来年は4校閉鎖が決まりました。ヘルパー不足の背景があって、事業所は、単価の高い介護保険の方にヘルパーを廻すため、視覚障害者にはヘルパーさんが廻ってこなくなったのです。
 先日、名古屋への旅行のため、コムスンに連絡しましたが、出発前日になって「ヘルパーさんが見つからずヘルプできない」と連絡がありました。お陰で、一人白杖振り振り、人に尋ねながらの旅行となりました。
 皆さんもご存知かも知れませんが、先日、「正岡先生、東京でダウン」というニュースが入ってきました。羽田空港で、コムスンのガイドヘルパーさんと待ち合わせがうまくいかず、2時間も待たされたのです。そこで、具合を悪くされたそうです。つまり、ガイドさんのやりくりがギリギリであること、「一元さん」と、いうことでヘルパーさんの中でも、あまり気の利かないガイドさんが視覚障害者には廻される事が多くなったわけです。つまり、良いヘルパーさんは単価の高い介護保険にまわされるのです。


3.利用者の負担額はいくら?
 ガイドヘルパーを利用した場合と、JBOSをはじめとするボランティアサークルを利用した場合での負担金額についてご紹介いたします。
 まず、ガイドボランティアの全国ネットワークである「全国視覚障害者外出支援連絡会」は、現在34の団体が加盟しています。
 その負担金額については、それぞれの団体が決まりごとを作っている為、まちまちです。

 @ボランティアサークルによって様々
 主な傾向を見ると、
【交通費】
 一緒に移動する時の交通費は、ほとんどの団体が視障者の負担。ボラさんが、家から待ち合わせまで、さよならから自宅までの交通費も視障者負担の場合が多い。大阪のクローバーの会のように、この部分を千円までは視障者持ち、越える部分はサークルが持つというところもあります。
【食費】
 基本的には、利用者がボラさんの食費も持つところが多い。中には、長崎アイヘルプのように、500円までは利用者負担。というようなところもあります。
 私は、お昼にかかった利用をしたことが9回ありますが、ボランティアさんも「どうせどこかで食べるんですから」と、自分で出された方もおいでます。9回のうち、私が負担したのは4回。ボラさんが自分で出されたのは5回でした。
 その他、サークルによっては、連絡料金として、2〜300円徴収しているところもあります。
 つまり、ボランティアさんの場合、サークルの原則やどこに住んでおられるかによって負担額がまちまちであることです。
 もう一つ気になるのは、食事の時、ボラさんが遠慮がちということです。正岡先生が築地の寿司屋に行った時もなかなか食べてくれなかったそうです。私のように、旅行中の昼飯はきつねうどんしか頼まないものに付き合った時は、ボラさんも同じ物しか頼まないのです。
 Aヘルパー事業所、重要事項をよく読んで
 ガイドヘルパーの場合の負担の仕方は、重要事項説明書に書いてありますので、契約の際、確認してください。
 事業所によってまちまちですが、全体的傾向として交通費は、利用者と一緒に移動する時の料金は、利用者持ちが多い。コムスンで事業所によっては「会社が支払いますから」という場合もあります。
 ガイドヘルパーさんが自宅から待ち合わせ、さよならから会社などの交通費は利用者が負担することはほとんどありません。
 食費は、一般の食事の場合は、利用者負担はありませんが、ディナーパーティーなど高級な場合は、話し合いの上、利用者が負担するところが多いです。また、入場料金の要るところは利用者負担です。
 また、ガイドヘルパー利用料金として、高知市は、1割負担で1時間280円負担。その他の自治体では、1時間150円。障害程度区分が重度と判定され、身体介護給付の移動支援と判定された方は、1時間400円負担というところが多くなっています。

4.ボランティアにも赤信号
 今までJBOSを利用する中で、ガイドボランティアさん、皆明るい積極的な人が多く旅行の思い出にもなりました。しかし、ここにも赤信号がついたのです。
福祉の市場化の中「ヘルパー事業所の営業妨害はしないでよ」といわれたところもありボランティアグループも弱ってきています。
 先日の名古屋への旅行は「キリンビール工場見学のあと、ビジネスホテルへ」というプランでした。しかし、「以前、男性を酒の席へ案内した後、ホテルへお連れしたところ、急に豹変されたこともあった」という事から、「ガイドボラさん見つかりませんでした」と、いう連絡が直前になってありました。サークル運営者としては、ただでさえボランティア不足、見知らぬ県外客の案内には構えてしまうみたいです。

5.話し合いで高知市は柔軟に
 高知市では、8月にガイドヘルパーの取り扱い要領を次のように整理しました。原文から抜粋して貼り付けますのでご確認ください。

高知市個別支援型移動支援事業取扱要領を以下のとおり定める。
平成19年8月3日
高知市元気いきがい課
高知市個別支援型移動支援事業
取扱要領
第5条 交通費,入場料等を要する場所への出入りを行う場合等,ヘルパーについても費用が発生する場合,その要する費用は利用者が実費負担するものとする。
2 前項の規定にかかわらず,業務内容にかかわらず発生する費用(食事代等)については,ヘルパーの負担とすることができるものとする。
3 事業所は,申込み時の聞き取りにおいて,実費負担が発生するかどうか確認のうえ,利用者とあらかじめその金額・内容等について打ち合わせを行い,齟齬(そご)が生じないよう確認・整理するものとする。

  ○発地又は着地
従来は発地又は着地のいずれかが利用者の居宅であることとされていたが,今後は利
用者の希望する場所を発地又は着地にできるものとし,居宅を前提としないものとする。

  ○社会通念上適当でない外出
 従来の個別に外出先として適当でない場所を定める運用を改め,外出先が法令に違反している場所(違法の賭博場など)でない限り可とする。

  (外出先として可能な場所の例)
カラオケ,映画館,居酒屋,競輪,競馬,
プール,選挙投票,よさこい等

6.直営ヘルパーの復活を
 いろいろ書きましたので、次のようにまとめてみます。
@昨年の改定介護保険法などによって介護事業の運営が厳しくなってきている。
A景気の上向きと介護単価の安さによりヘルパーが急に不足している。
B視覚障害者への家事援助とガイドヘルプには、ヘルパーを廻さなくなっている。
Cボランティアが弱まっていること。
です。
 私が思う解決策は、「市直営のヘルパー事業所の建設」です。今、名古屋で梅尾明美さんをはじめ、愛知県の全視協の仲間たちが、名古屋市を相手取って、公的ヘルパーの必要性を訴え裁判で闘っておられます。
 この20年間、国鉄も電話も郵便もどんどん民営化されてきました。福祉の市場化の下、守る会が反対運動をしたにもかかわらず、3年前、高知市も直営ヘルパーを廃止しました。
 政府の動きに逆らう大変なことですが、もう一度市の直営ヘルパーが必要になってきたことを感じます。各県に直営をもち、ガイドヘルパーのネットワークが築かれると、県外移動も随分スムーズになります。

7.おわりに
 郵政は民営化されましたが、ニュージーランドでは「民営化になって料金値上げ、深刻な利便性の低下で」ということで、国営に戻りました。私たちの要求で直営ヘルパーを復活させていこうではありませんか。



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