時は200X年(1)
松田哲昌
その朝俺は東京の全視協大会に行くはずだった。そのせいかいつもより早く目がさめた。テレビをつけるとアッ!いつもとはすこし違っていた。
画面いっぱいに「緊急事態法発令中」と出ていてやがてあのハゲタカのような官房長官が映し出された。
奴は慇懃無礼に頭を下げるとペラペラとしゃべり始めた。
「ただいま政府より緊急事態法が発令されました。国民の皆様は冷静沈着に落ち着いて対処されますようお願いいたします。」
「ア!やっぱり来たか。何年か前に自民・公明・保守それに民主党の一部までが強行採決して成立した有事法制がついにやって来たのか」
俺はじっとブラウン管を見つめた。
あの頃米軍がついに国連憲章を踏みにじりイラクを攻撃し、自国に都合の良い政府を作りイラクの石油を独占したのだ。
日本政府はその事態を、テロを撲滅すると言う口実で自衛官を派遣したのだった。
そして有事法が国会に提出された。
2003年には60年安保を上回るような激しい反対運動が沸き起こり、国会周辺は連日のようにデモ隊に取り囲まれたのだ。
しかしそれは一部のマスコミを除いてはほとんど報道されず、国民は何がなにやらわからないうちにこの国家総動員法を傍観するしかなかったのだった。
奴の饒舌は続く。
「これは緊急事態であります。従って緊急事態に対処する事が最優先されるべきであります。国民の安全と財産を守るために最善のご協力をお願いいたします。いまさら申し上げるまでもなくこの緊急事態法には国民はすべて無条件に協力する事が義務付けられておりまして、これに抵触すれば法令違反として処分されますので、くれぐれもご協力をお願いいたします。」
「何だこりゃ!、最初から強権的に国民を脅迫するつもりかよ!」
奴は嘴をますます尖らせてしゃべる。
「この法令にありますようにその条文のとおり、只今から都道府県市区町村の権限は全て政府に移管されます。従いまして国民の皆様は公務員および、これに準ずる者の指示に従い沈着冷静に行動するようお願いいたします。その内容といたしましてはこの法令を批判されたり、上記の者の指示に従っていただかない場合には処罰の対象になりますのでご協力をお願いいたします。」
あれほど反対した協力義務がこんな風に来るとは思わなかった。
俺たちの心まで縛ろうと言うのか。
「次に具体的に政府としてのお願いを申し上げます。その第一は国・地方自治体および公共機関は政府の通達に従っていただきます。まず、NHKをはじめ民放テレビ・ラジオおよび新聞各社またはこれに準ずる皆様は政府の指示に従い報道には十分留意され、いやしくも国民を惑わしあるいは流言飛語を助長する事の無いようにお願いいたします。また電信電話に携わる皆様はその電波の発射はもちろん、その傍受も禁止されますので法令に違反の無いようにご協力をお願いいたします。」
「ナニ!、俺たちの目と耳と口を塞ぐつもりなのか」
続く
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