「みちしるべ」2003年4月号より

時は200X年(2)
               松田哲昌

 その朝政府はその理由も説明もなく有事法制と緊急事態法を発令した。政府は国民に対して報道通信など言論と報道の自由を規制することを発表した。そして次々に有事対処最優先の措置を押し付けてきたのだ。
 ハゲタカの官房長官の口調は、ますます興奮を帯びてくる。
 「次に第二番目としては交通輸送についてであります。緊急事態でありますから、これに対処する人員と物資の輸送が最優先されなければなりません。従いまして鉄道・港湾・船舶および空港はこれに最優先で使用されます。また国道も同じでありまして鉄道船舶航空およびトラックなど運輸従業員は無条件にこの法令によりこの事態に従事しなければなりません。国民の皆様は不要不急の旅行や外出は控えられますようお願いいたします。」
 「なんだ!、足まで縛る気かよ!、」
 「次に第三のお願いは物資の統制に関する事でございます。」
 ハゲタカは頭を左右に振りながら続ける。
 「最前申し上げましたように緊急事態に人員輸送を最優先に投入しなければなりません。従いまして物資物品もまた政府が一括管理して効率良く効果的に活用されなければなりません。国民の皆様には重ね重ねお願いいたしますが、次の物資物品は政府の統制下に置かれます。生産者・卸し・小売、そして消費者もご不自由とは存じますがご協力をお願いいたします。これに従っていただけない場合も処罰の対象になりますので、いやしくも買い急ぎ買い溜めなど法令に抵触されないようご注意お願い申し上げます。」
 そこでハゲタカは画面から消え、犬のような防衛庁長官がしゃしゃり出て来た。
 ブルドッグの長官は慇懃に頭を下げると大げさに胸ポケットからメモを取り出してワンワンとほえ始めた。
 「只今官房長官からありました物資物品は我が方の必需品でありまして最優先に使用させていただきます。それではその内容と申しますか、リストを申し上げます。」
 奴はゴクンとつばを飲み込んで、
 「(1)食料品、特に米・小麦 = これは粉末すなわち小麦粉も含まれます。調味料 = 油その他当方で必要と認めた食料品一般であります。」
 「えっ!俺たちをヒボシにするつもりか」
 「(2)燃料 = これにはガソリン・灯油・重油・ガスなど当方の指定する物資および電力であります。 (3)医薬品 = これも我が方の必要な物を指定いたします。これに関連して、薬剤師・看護師・医師またはこれに準ずる要員は緊急事態に従事し、負傷あるいは疾患の要員の治療のため当方の指定により動員されます。従いまして病院・診療所などは官民を問わず、その治療を最優先しなければなりません。国民はよほど重症重度の場合を除き病院および診療所の使用を差し控えていただきます。」
 「何を!、俺たちの命までと・・・。と言うのか!」   (続く)



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