時は200X年(6)
松田哲昌
ホームに降りたった瞬間、ズシーンと腹に響く衝撃を感じて、思わずその場に立ちすくんでしまった。
見渡すとホームには5・6人の女子高校生がいて、皆しゃがみこんで耳に手を当てて大きな口を開けている。
おそらく、「キャーッ」と悲鳴をあげているのだろう。
その悲鳴も聞こえないほどの爆音が耳をつんざく。
彼女らの視線の先の空を見上げると、三角翼の戦闘機が何機も旋回している。
戦闘機が急降下をするたびに衝撃波が降って来て、ホームのベンチの背もたれのブリキの看板や駅の表示板がビリビリと共鳴して振動しているのだった。
脳ミソが壊れたような気分で、ふらつく足を踏みしめながら階段を上り、改札を抜けて出口の階段を下りる。
タクシー乗り場に停まっている、ただ1台のドアをノックする。
カーラジオを聴いていた運転手が振り向いて、あわててドアを開ける。
「お客さん、竜馬空港には行けませんよ」
行き先を告げる前に彼は、かなきり声をあげた。
よほどショッキングなニュースがカーラジオから流れていたらしい。
「なぜですか、?」
俺は取り敢えず座席に乗り込んで聞いてみた。
「どうして行けないの、?」
「今ラジオでね、竜馬空港は民間機は使えないと言ってたから」
「ほら、あの戦闘機のせいですか、?」
「いや、そんな事は何も言ってなかったよただ民間機は飛ばないとだけ ・・・」
「じゃー、行ける所まで竜馬へ行ってくれますか、?」
「行くには行きますが、お客さん飛行機に乗れなくてもわしゃー知りませんよ」
「それでも良いから、とにかく行ってくれませんか」
車は走りだした。
駅前から国道に出る交差点の信号は赤で、何分たっても変わりそうになかった。
「お客さん、すこし高く付きますが・・・裏道を通って行きますか?」
「うん、そうしてください」
タクシーは左に曲がると狭い路地を右に左に、せわしくハンドルを切りながらのろのろと走った。
裏道から国道に出ると、交差点には警官と迷彩服の自衛官が数人いて、赤く点滅する例の交通整理用のスチックを振って俺たちを停止させた。
「運転免許証」。警官が運転手に駆け寄る
「あなたは身分証明をする物を持っていますか?」。もう一人の警官がドアを開けて俺に聞く。
「なぜそんな物がいるんだね。タクシーに乗るのにいちいち身分が関係するのか!」
俺はその警官にどなりつけた。
「今は緊急事態法発令中です。ですから ・・・」
「身分を調べてどうするんだ」
「とにかく何か持ってませんか?」
「持ってなかったらどうだと言うのかね」
「ちょっと車から降りてください」。警官は俺の左腕をつかむと強引に俺をタクシーから降ろした。
「今は法の発令中だ。反抗すると逮捕する」突然彼は居丈高にそう言った。
こんな所でトラブっている暇はない。
「それほど見たけりゃ見せてやるよ」。 俺はポケットから身障手帳を取り出して彼の前に突き出した。
「なんだ、めくらか」
「めくらとはなんだ。取り消せ」
「いや、気が立ってたから・・・。とにかくわかった。ここからは通行できない。すぐに引き返しなさい」
運転手が来て、「お客さん、タクシー代はもういらないから後免駅まで帰ろうや」。
気が付くと、タクシーの周りを数人の警官と自衛官が取り囲んでいた。
(続く)
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