「みちしるべ」2005年3月号より

時は200X年(11)
               松田哲昌

 何年か前に、NHKの不正経理や汚職が発覚したことがある。更に、既に製作済みの番組の内容をNHK幹部が政府与党に「説明」して、与党幹部から圧力を受けてその内容を変質させたことも大きな問題となった。その内容は、第2次大戦中日本がアジア各国で従軍慰安婦として女性に犯した罪を裁き、天皇の戦争責任を問うものだった。NHKはその内容を放送直前に改竄(かいざん)してしまったと内部告発があった。NHKはろくな調査もせずにその疑惑を否定したのだった。
 その問題は国会でも取り上げられたが、国民の怒りと不信感はますます広がり、受信料不払い運動にまで発展した。一度不払いを経験して(受信料を払わなくても罰則がない)と知った視聴者が増大してNHKの財政は成り立たなくなってしまった。そこで、NHKは政府与党に泣きついて次のような法案を強行成立させてしまった。
(1) 年金受給者は年金から天引きする
(2) サラリーマンは給料から天引きする
(3) その他の人からは国民年金の掛け金に上乗せして徴収する
 国民の意思と良識を基礎に公平公正であるべき公共放送としてのNHKは、このようにしてその予算を握る政府の広報機関へと変質していったのだ。
 その変質の特徴の一つは、政府与党に都合のいい番組が多くなり、彼らのスキャンダルへの追及が極端に浅くなったことである。今朝の放送もその一つで、批判的内容は一切なかったではないか。もう一つの特徴は、海外に派兵している日本軍やアメリカ軍の被害や殺戮のニュースをNHK独自の下ではなく、全て外電(AFPロイターなど)の発信として何の解説も加えずに流すだけになったことだった。
 丁度その頃、放送局の株式を買い占めて買収しようという動きが頻繁になっていた。表面上は国内の株式争奪戦だったが、その実態はアメリカを中心とした巨大資本の策動であった。いくつかの民放局は結局彼らの手中に落ちてしまった。これらのメディアもまた真実を伝えることより、その支配者の意向が大きく左右するようになっていた。
 突然日本シリーズの放送が中断されて、画面にぎょっとするようなタイトルが映し出された。
                 続く

 (筆者付記) この原稿を書いている2005年3月25日、政府は「国民保護基本指針」を閣議決定した。簡単に言うと、(1)海から陸に侵攻する (2)ミサイル核弾頭による攻撃
(3)特殊部隊による生物化学兵器による攻撃
(4)航空攻撃  これら4つのパターンに分類し、それぞれに対応した避難及び救助訓練を国民に押し付ける。このシリーズの(1)と
(2)で書いたようなことを予想させるものである。願わくば、このシリーズの現実的端緒とならないことを祈る。



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